CALM & PUNK GALLERYは、2025年4月に東京で開催された安井ちさとの個展「Whereabouts - In a Liminal State」にて発表された作品を展示いたします。

安井は、伝統的な日本陶芸の枠組みを好奇心とともに見つめ直しながら、陶を用いた表現の可能性を長年にわたり探求してきました。
茨城の静かな郊外にある自宅スタジオで制作を行う安井は、素材と身体との親密な対話を通じて、陶を用いた表現の可能性を長年にわたり探求してきました。彼女の制作は、伝統的な日本陶芸の枠組みに挑むものでもあります。
「部首(Bushu)」シリーズ

"Shinnyo" (2025)
本展の中心となる安井の「部首(Bushu)」シリーズは、日本語の文字に内包された形や意味を新たな視点で再構築する試みです。
このシリーズのきっかけとなったのは、安井の子どもたちによる書き初めでした。学校で教えられる「書き方」というルールに縛られることなく、自由に漢字に向き合う彼らの姿を目にしたことがきっかけとなり、安井は「部首」という要素に、既成の枠組みから外れる流動的な感覚を重ね合わせることを思いついたといいます。

Detail of "Shinnyo" (2025)
作品《しんにょう》は、部首の一つ「しんにょう」からタイトルを取っており、柔らかなピンクやラベンダーの色彩が幾層にも重ねられた表面には、受け継がれてきた形への安井のアプローチと、油絵を背景に持つ彼女ならではの感性が表れています。

"Ichimonji" (2025)
対照的に、同シリーズのもう一つの作品《一文字(Ichimonji)》は、繊細な緑色で表現されており、安井の絵画的な感性が改めて感じられます。
"plus/minus_neutral" series
本展で紹介されたもう一つの重要なシリーズは、「plus/minus_neutral」シリーズです。安井はこのシリーズで、小さく白い陶のかたちに遊び心と軽やかさをもって取り組みました。「plus/minus」の新しいシリーズである「plus/minus_neutral」は、安井がCALM & PUNK GALLERYを訪れた際の体験や、スタッフとのやりとりを通じて生まれました。
「スタッフの方々との交流から、軽やかさやフラットさ、そして心地よさを感じ、想像が生まれる更地のような印象を受けました」と安井は語ります。
マットな白い表面を保ったままのこれらの作品は、有機的なキャンバスとして構想されており、時の流れや将来的にさらに手が加えられる可能性を内包しています。

"plus/minus_neutral_d" (2025)
"en" series
「en」シリーズは、安井と安井の娘が5年前に描いたドローイングが元になっています。平面的な鉛筆のスケッチを立体的な彫刻へと翻訳し、元の輪郭線を三次元に持ち上げることで、有機的な非対称性を取り入れています。直感的に名付けられたタイトル「en」は、日本語で「縁」「境界」「炎」などの意味を含み、ひとつの意味に固定されません。記憶がかたちをとるように、「en」シリーズはドローイングと彫刻、存在と過程の間を漂っています。
