An Interview with Malaysian Artist Kamwei Fong

マレーシア出身のアーティスト・カムウェイ・フォンが描く猫といった動物たちの緻密で繊細な線描画は、世界中の愛猫家をはじめ多くのファンから愛されています。
黒のミクロ顔料のみで描きだされるモノクロの動物たちは、静かで穏やかな佇まいを見せながらも、豊かな感情や想いを宿しています。

by GASBOOKではそんな彼に、作品づくりのプロセスや猫に囲まれた暮らし、そして日本から受けるインスピレーションについて話を聞きました。

制作中プロセスについて

ーあなたの作品は、静かで柔らかく、その緻密さは瞑想的にも感じられます。制作中の気持ちや、どのようなプロセスで描いているのか教えてください。

正直に言うと、描いているときは“ぼーっとしている”ような感じなんです。とてもリラックスしています。描いている間はあまり考えすぎません。描くことが、自分の感情を休ませる安全な場所のようになります。

世界が「質感」「リズム」「筆の音」だけに絞られていく。
線を重ねるほど、作品は柔らかく、ふわふわとした仕上がりになっていきます。
まるで一つひとつの線が呼吸をしているようで、層を重ねるうちに絵が生き始め、静けさを自分に返してくれるような感覚です。

僕はとてもゆっくり描きます。
小さい作品なら数日、大きいものだと数週間から数ヶ月かかることもあります。
どのくらい複雑にしたいか、どれだけ層を重ねるかによって変わります。
線を重ねるほど柔らかく、ふわふわになっていく。少し中毒のような感覚です。とてもゆっくりした瞑想のようなプロセスで、雲が形をつくっていくのを眺めているような感じです。

モノクロで表現することについて

ーなぜモノクロで描くことにこだわるのでしょうか?

僕の作品は、どこか宙に浮かぶような世界の中に存在しているように感じます。
黒と白の組み合わせがとても好きで、クリーンで集中できるんです。
モノクロにすることで、すべてを本質的な要素にまで削ぎ落とすことができます。
つまり、光と影、そして質感。

色がないことで、線のリズムや生まれるムードに深く入り込めます。
とても落ち着いた制作方法なんです。
また、黒と白は密度と余白の関係を観察できるのも魅力です。
色の情報に惑わされず、見る人の目が線の重なりや空気感に自然と留まります。
構造や感情、柔らかさをもっとも純粋な形で表現できる手段なんです。

でも、誤解しないでください。僕は色も好きです。
赤や青だけで描いたこともありますし、いつかフルカラーにも挑戦したいと思っています。
「Furry Thing」をアクリル絵の具でキャンバスに描いたこともあります。
パステルのような色を使い、全く違う技法で描いた結果、まったく新しい種類の“柔らかさ”が生まれました。

 

猫たちが与えてくれるインスピレーション

ー作品を見た人から「まるでうちの猫みたい」と言われることも多くあるそうですね。なぜ人々がそのような感想を抱くのだと思いますか?

最初に猫を描き始めたとき、すべては想像の中から生まれました。
インターネットで見つけた参考画像をもとに描いていたんです。
実際に猫と暮らすようになる10年以上も前のことです。

今では、自宅のスタジオが猫でいっぱい。
彼らが日々のインスピレーションになっています。
周りをうろうろしている猫たちは、みんなそれぞれが“生きたモデル”なんです。

ただ、僕は猫をリアルに描こうとは思っていません。
描き方はとてもミニマルで、鼻やひげ、脚、足をあえて省くことも多いです。
猫がすぐそばにいても、僕は想像力にかなり頼っています。

僕を一番刺激するのは、猫たちの柔らかさや静けさ、そして空間に溶け込むような存在感です。
特定の猫を描くのではなく、“猫という存在の感覚”そのものを表現しています。

お客様から、飼っている猫を描く依頼を受けることもありますが、そのプロセスがとても好きです。
誰かが自分の大切な存在を、僕のスタイルで描いてほしいと信頼してくれるのは本当に光栄なことです。
完成した作品を見せる瞬間は、毎回とても特別です。

 

猫とともに暮らすこと

ーご自宅では多くの猫と暮らしていますね。あなたにとって猫とはどんな存在ですか?そして猫の魅力を一言で表すとしたら?

猫に囲まれて暮らすのは、とても幸せ!
空間が温かさと優しい存在感で満たされます。

それぞれの猫に個性があって、孤独を好む子もいれば、遊び好きな子、甘えん坊な子もいます。
僕にとって猫は神秘的な存在。
彼らは“今この瞬間”を生きるミニマリスト。
未来を心配せず、ただ自分の存在に満足している。

猫の魅力を一言で言うなら――
「僕は僕である。理解されなくても構わない。それでいい。ただ今を生きている。」

その言葉に、猫の誇り高さと自由さが表れています。
そして、僕が最も惹かれるのは、猫が“神秘”と“安心感”を同時に持っているところです。

日本からの影響について

ー日本をよく訪れていますが、日本からどのような刺激を受けていますか?

これまでに何度か日本を訪れていますが、毎回新しい発見があります。

訪れるたびに、日常の細やかな部分や、文化と創造性が交わる瞬間に心を動かされます。

次に日本に行く時は、観光よりも、日本の職人や伝統工芸の作り手と出会いたいです。
日本人の感性がどのように物語やビジュアルを形づくるのか、直接見てみたいんです!

特に惹かれるのは、日本の猫文化。
猫カフェや猫の島など、猫が地域とともに生きる場所にとても興味があります。
そうした場所で、人と猫の暮らしがどう共存しているのかを見てみたい。

そして、日本のミニマリズム――断捨離や"丁寧な暮らし"の考え方にも大きな影響を受けています。

この哲学が自分の生き方を変えました。
長年ミニマリストとして暮らしてきましたが、今は“エッセンシャリズム(本質主義)”を意識しています。
本当に大切なものだけに囲まれて生きること。
その考え方は作品にも自然と反映されています。

日本のアートには、シンプルさと深みが共存しています。
自分の作品にもそのバランスを取り入れたい。
現代的でありながら普遍的な美しさを持つ作品を作りたいと思っています。

そして何より、ただの“訪問者”ではなく、ゆっくりと立ち止まり、観察し、日本の日常にある小さな美しさを感じ取りたい。そこから新しいインスピレーションを得たいと思っています。

The Furry Thing by Kamwei Fong