世界中の愛猫家から愛されるアーティスト、カムウェイ・フォン。黒のミクロ顔料のみで描きだされる彼の作品は、穏やかな佇まいのなかに、豊かな感情や想いを宿す動物たちをモチーフにしています。by GASBOOKではそんな彼に、制作プロセスや猫に囲まれた暮らしについて話を聞きました。

描くことが、自分の感情を安らげてくれる
ーどのようなプロセスで制作しているのか教えてください。
僕はとてもゆっくり作品を描きます。小さい作品なら数日、大きいものだと数週間から数ヶ月かかることもあります。とてもゆっくりした瞑想のようなプロセスで、雲が形をつくっていくのを眺めているような感覚ですね。線を重ねれば重ねるほど、柔らかくふわふわになっていくのに夢中になって描いています。
正直に言うと、描いているときはぼーっとしていて、あまりなにも考えずにリラックスしています。描くことが、自分の感情を安らげてくれる。質感やリズム、そして筆の音だけに意識が絞られていくにつれて、まるで一つひとつの線が呼吸をしているように絵が生まれ、心の静けさを取り戻せるんです。

本質を描きだすモノクロームの世界
ーなぜモノクロで描くことにこだわるのでしょうか?
モノクロにすることで、本質的な要素、光と影、そして質感だけへと削ぎ落とすことができます。線が生み出すリズムやそこから立ち上がるムードに深く入り込むことができる。また、色に惑わされずに密度と余白を観察できるのも魅力的です。鑑賞者の視線も、線の重なりや空気感へと自然と引き寄せられる。構造や感情、柔らかさをもっとも純粋な形で表現できる手段なんです。
とはいえ色も大好きです。赤や青だけで描く実験もしてきましたし、「The Furry Thing」シリーズをアクリル絵の具でキャンバスに描いたこともあります。パステルのような普段と対照的な色彩と、全く異なる技法で制作した結果、まったく新しい種類の“柔らかさ”が生まれました。いつかフルカラーでの制作にも挑戦したいと思っています。
猫たちが与えてくれるインスピレーション
ーあなたにとって猫とはどんな存在ですか?
最初に猫を描き始めた10年前は、すべて想像とオンラインで見つけたわずかな資料をもとに描いていました。でも今では自宅のスタジオは猫だらけ。周りをうろうろしている猫たちが“生きたモデル”であり、日々のインスピレーションになっています。
ただ、僕は猫を極端にリアルに描こうとはしていません。僕の描く猫たちはとてもミニマルで、鼻やひげ、脚をあえて省くことも多いです。たとえ本物の猫がすぐそばにいても、想像力に頼る部分は大きいままです。僕が最も惹かれるのは、猫たちの柔らかさや静けさ、そして空間に溶け込むような佇まい。特定の猫を描くというよりは、“猫という存在の感覚”そのものを表現しているんです。僕にとっての猫は、とてもミステリアスな存在で、今この瞬間を生きるミニマリスト。未来を心配せず、自分の存在に満足している。「私は私のままでいい。理解されなくても大丈夫。ただ今を生きている」、そんなメッセージを発している気がします。猫たちには神秘性と安心感があまりにも自然に同居している、そこにいちばん心を惹かれます。

日本から学んだ、本当に大切なものに囲まれて生きること
ー日本をよく訪れていますが、日本からどのような刺激を受けていますか?
日本を訪れるたびに、日常のささやかなディテールから、文化と創造性が交差する独自の在り方まで、新鮮な発見があります。日本のミニマリズム、例えば断捨離やマインドフルな生き方といった思想からも大きな影響を受けてきて、長年ミニマリストとして暮らしてきましたが、今は“エッセンシャリズム(本質主義)”へと少しずつ意識が移ってきています。本当に大切なものだけに囲まれて生きること。そんな考え方は作品にも自然と反映されています。日本のアートには、シンプルさと深みが共存しています。自分の作品にもそのバランスを取り入れ、現代的でありながら普遍的な美しさを持つ作品を作りたいと思っています。
次に日本に行く時は、観光よりも、日本の職人や伝統工芸の作り手と出会いたいです。そして何より、ただの“訪問者”ではなく、ゆっくりと立ち止まり、観察し、日本の日常にある小さな美しさを感じ取りたい。そこから新しいインスピレーションを得たいと思っています。

◼︎展覧会概要
カムウェイ・フォン(Kamwei Fong)個展
「I don’t care what you think about it. 」
会期 : 12月12日(金)− 12月21日(日)
時間:13:00 ~ 19:00
*12月15(月)、16(火) アポイントメント制にてオープン可
場所: CALM & PUNK GALLERY
住所:〒106-0031 東京都港区西麻布1-15-15
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