カムウェイ・フォンが描く「猫」。

『TJMOOK リンネル特別編集 にゃんネル 猫がくれる幸せな毎日』に掲載された、カムウェイ・フォンのインタビュー。本誌に収録しきれなかった番外編をお届けします。

猫を描くとき、どのようにアイデアを生み出していますか?

「The Furry Thing」のキャラクターたちは、基本的に僕の創造から生まれています。自分の猫たちをモデルにすることは、実はあまりありません。

2009年にこのシリーズを始めたころ、僕はそもそも猫を飼っていませんでした。まあるい雲のような体、大きなしっぽ、ぽつんと佇むようなポーズなどは、僕自身のビジュアル表現から生まれたものです。目や姿勢、シルエットといったシンプルな要素だけで、ある感情や態度を表現することに興味があります。

表情やしぐさを描くときに意識しているのは、「徹底してシンプルな形にする」ということ。これは、僕のデザインのバックグラウンドから生まれた、ミニマルなアプローチでもあります。鼻や口、ひげなどの必要不可欠ではない要素は、意図的に省いています。

Kitty No.25
「Kitty No.25」

特に注意しているのが“目の位置”です。ほんの少しの位置の違いだけで、静かな好奇心を表現できます。また、しっぽも非常に重要で、柔らかな曲線や雲のようなもふもふ感によって、安心感や心地よさを表現しています。

好きな猫の「ポージング」。

眠っていたり、のんびり伸びをしたりしているような「プレッシャーゼロ」のポーズを描くのも好きです。何も急ぐことなく、ただそこに存在している生き物を見ることは、それだけで穏やかさがあります。

gaga
「gaga」

一方で、いたずらっぽかったり、とても活発なポーズを描くことも。それでも、どこかのんびりと、リラックスして見えることがあります。もちろん、完全にその穏やかさから外れた「怒っている猫」を描くこともあります。

ここには面白い矛盾があって。僕は何日、何週間とかけて一本一本の毛をも、ものすごく集中して描きます。一つのミスで作品全体が台無しにしないように細心の注意を払う作業なので、その日の気分によっては癒やしにも、逆にとても退屈で大変に感じる作業でもあります。それほど長く、大変なプロセスを経ているのに、最終的に出来上がった作品は心地よさやぬくもり、穏やかさに満ちている。これは僕の作品にある、もう一つのおおきな矛盾にもつながっています。

Companion No.1
「Companion No.1」

猫のフォルムそのものはとてもミニマルなのに、その中は一本一本の毛を描きこむ、膨大で緻密な作業によって埋め尽くされている、ということです。最終的には、制作過程そのものを通して、静かで穏やかなエネルギーが作品に織り込まれていくのだと思います。

作品のインスピレーションについて

インスピレーションは、突然やってきます。何週間も鉛筆すら手に取らず、アイデアのスケッチもまったくしない時期もあれば、突然、頭の中に大量のアイデアが押し寄せてくることもあります。

ほかにも、「自分自身に挑戦したい」という気持ちからアイデアが生まれることもあります。デザイナーとしての感覚を使いながら、新しく複雑な猫の感情を、厳密な幾何学的構成の中にどう収められるかを考えるのです。

Kitty No.61
「Kitty No.61」

一方で、アイデアをスケッチブックや紙入れに描いたまま、何年も実際の作品にしないこともあります。まだ、そのタイミングではないと感じたら、アイデアが成熟するまで待ちます。……とはいえ、単純に僕が怠け者で、何もしたくないだけのときもあります(笑)。

制作における二面の思考

作品を制作中の頭の中には、不思議な二面性があります。

描きはじめの最初の段階の頭はとても分析的です。デザイナーのような正確さで俯瞰し、バランスやグリッド、余白を組み立てていきます。ところが、最初のスケッチが完成し、マイクロピグメントインクのペンで線を繰り返し描く、という作業にはいると、頭は全く違う状態になります。

完全に無心になり、まるでその時だけは、世界に自分しか存在していないような感覚になるのです。周囲の世界が消えていくような感覚があります。

制作風景

分析的な思考が消え、静かリズミカルなトランス状態のようになる、というか。時間感覚も変わっていき、インクの線と線の間のほんの僅かな距離だけに集中しているうちに、気付くと何時間も過ぎている。

制作自体が癒やしではなく、苦しく退屈に感じる日であっても、僕の意識はその「一人きり」の静かな世界に留まっています。そして、強い集中から解放され、完成したキャラクターがようやく命を持ち始めたように感じられる、その瞬間を待つのです。

モノクロの作品にこだわる理由

実は、白と黒だけで制作をすることは、僕のアートに対する考え方の中でも特に意識的にしている選択です。

真っ白な紙の上に、黒いマイクロピグメントインクのペンだけで描く。色という要素を取り除き、シンプルで純粋な形だけを通してキャラクターの個性そのものを浮かび上がらせています。

モノクロで描くことで、質感やボリューム、奥行きにも集中できます。一匹の動物を描くのに、何千本もの小さな線を一本一本、丁寧に描くことで作ります。

線の太さや密度、濃淡を白い背景の上で変化させることで、実際に触れられような毛並みを表現できます。

そこに色を加えると、この繊細な感覚が複雑化してしまいます。モノクロだからこそ、あの毛並みと、独特の存在感が生まれるのです。

Kitty No.67
「Kitty No.67」

そして、最終的にこのモノクロの表現によって僕が作りたいのは「静けさ」なのだと思います。

シンプルであることで、見る人の意識がしっぽのカーブや首の傾き、猫の静かな視線といったささやかなデティールへと向かうのです。

僕はこの静かな空間は、孤独や内省を映し出すものだと考えています。そして見る人自身の感情や想像力を作品の中に持ち込んでもらえるような余白でもあると思うのです。

おわりに

さまざまな視点から「猫」という生き物を通して作品を作り続けているカムウェイ・フォンさんへのロングインタビュー。今回のインタビューを通じて、改めて見る作品はまた違ったものに見えるのではないでしょうか?

カムウェイさんがご自身と、ともに暮らす10匹の猫とのことを語っているインタビューは、『TJMOOK リンネル特別編集 にゃんネル 猫がくれる幸せな毎日』(宝島社刊)に掲載されています。付録には、カムウェイさんの描く「The Furry Thing」のイラストがあしらわれた「猫のひげケース」付き!ぜひチェックしてみてくださいね。

【書誌情報】

『TJMOOK リンネル特別編集 にゃんネル 猫がくれる幸せな毎日』(宝島社刊)

にゃんネル 書影

2,699円(税込)

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